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薬物治療の問題もあります。
アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる塩酸ドネペジルは誰にでもすぐに効くわけではなく、薬効の時期と期間がありますね。
ある製薬メーカーが塩酸ドネペジルを主成分とした薬を開発したときに、私は「この薬は効果のある人に効果のあるときに使うように」と助言しました。
ところがいまはどの医者も認知症の疑いがあると、適不適を考えずにすぐにこの薬を処方してしまいます。
また日本医師会では、簡単な研修で認知症のサポート医を養成しようとしています。
しかし講習を受けたけれども、よくわからないという医者が多いので、アフターサポートとでもいいますか、研修後も医者をサポートするシステムが必要でしょうね。
それから、国は宮城県・仙台市、東京都・杉並区、愛知県・大府市の三カ所に認知症介護研究・研修センターをつくりました。
そこでは認知症ケアの研修が行われているのですが、こちらは医者というよりもケアスタッフが中心です。
二週間から一カ月間ほどの研修で、その間は施設に代替のスタッフを派遣してくれるということですが、研修の効果が出るのはしばらく先のことでしょうね。
研修内容は塗り絵をしたり、介護予防ということで高価なトレーニングマシンを買ってリハビリテーションをするといったものです。
やらないよりはやったほうがいいでしょうが、こういったケアに効果があるという根拠があるのか疑問を感じます。
認知症の治療はどこまで進んだか認知症についていまわかっていることは、音楽などを聞くといった右脳的な活動をしながら、運動して身体に負荷をかけると少しは効果があるだろうということです。
ただ、どんなことでもある程度集中的にやると、長谷川式簡易知能評価スケール(認知度を知るためのテスト)の点数が二、三点上がることも確かで、認知症の進行を遅らせるためには、何もやらないよりはやったほうがいい。
しかし、その程度の効果です。
厚生労働省はアルツハイマー型認知症はワクチン療法での治療ができるようになると思っているようで、研究治験の成功が期待されています。
アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβたんぱく質が沈着して老人斑をつくり、これが神経細胞を死滅させて引き起こされると考えられています。
その沈着をワクチンで防ぐ研究をしているのですが、アミロイドβたんばくの沈着は、アルツハイマー病発症の十年くらい前から始まります。
認知症が予防できると断言できる方法は、まだいまの段階ではないですね。
軽度認知機能障害と呼ばれる状態の人は、ふつうの生活ができているし、生活の維持という点では大きな問題はない。
にもかかわらず、心理検査や知能検査で詳細に調べてみると、なぜか記憶力だけが極端に低くなっているのです。
では、この軽度認知機能障害を発見した段階から塩酸ドネペジルを飲ませれば認知症予防になるかというと、それも断言できません。
というのは、軽度認知機能障害の人たちは三~五年経つと、半分はアルツハイマー病になりますが、四分の一は軽度認知機能障害のままで、四分の一の人はノーマルに戻るのです。
なぜ人により異なるのか、これがまだよくわかっていないのですね。
つまり、軽度認知機能障害は非常に確率の高い認知症予備軍なんだけれども、全員が予備軍とはいえないのです。
それから、身体拘束のところでも少しふれましたが、身体疾患があったり、骨折をしたり、縛られていたりして、半年間から一年間、無活動の状態におかれると、少なくとも認知症様しい言い方をすれば、「機能的な障害が、ある時期から音質的な障害に変わる」ということです。
そういう可能性が否定できないのです。
たぶん脳病理学や神経病理学の人たちは、こうした見解をあまり認めたくはないだろうとは思いますけれども。
アルツハイマー病というのは、人類が最後まで克服できずに残る病気の一つだろうと私は思います。
人間はどんなに長生きしても百三十歳以上は生きられない。
もし人間の脳細胞を二倍くらいに増やせれば、その年齢まで認知症で悩まされることはなくなるかもしれない。
しかし、そんなに多くの脳細胞をもつと、身体のほうが追いついていかない。
追いつくには身体にも突然変異が起こらないといけないわけです。
もしもそのような異変が起こったとしたら、誕生した新しいミュータントからは人間は猿に見えることになります。
それくらいアルツハイマー病の克服は難しい。
結局、過度のストレスを避け、バランスのよい栄養をとり、適度な運動をする。
これが一番の認知症予防だということです。
アルツハイマー型認知症の原因には遺伝も関与すると考えられていますが、DNAというのはがんもアルツハイマー病も同じで、あるとき、何かのきっかけで発病スイッチがオンになってしまうのだと思うのです。
がんの場合にはDNAのミスコピーから始まります。
スイッチ・オンになると、防ぎようがない。
ストレスは、発病スイッチをオンにする促進要因でしょうね。
ストレスを感じやすい性質と感じにくい性質の人がいますし、ストレスを上手に回避できる人もいます。
そのほか、友だちの少ない人も認知症になりやすい。
外に出ない人もだめなようです。
ですから、家にひきこもらず、友だちをつくって出かけるようにすると認知症の予防になる。
また、友だちは同世代よりも、自分の年齢より下の人とつきあうほうがいい。
同世代だと馴れ合いになるか、愚痴の言い合いになるか、どちらにしてもよい刺激を受けられることが少ない。
主治医も若いほうがいいようです。
十~十五歳年下の優秀な医者の助言のほうが、思いがけないことを指摘してくれることが少なくないのです。
認知症の治療や予防については、まだまだわからないことがたくさんあります。
治療は簡単ではないけれども、早期発見がとても重要です。
そのためには、病気を見落とさずに診断できる医者を増やすことが大事だということです。
在宅医療への転換をいくら進めようとしても、在宅療養をフォローする医者がいなければ実現しえない話です。
それから地域医療だとか在宅医療だとか、国はかけ声だけはかけるけれども、その対応策については安易に考えているように思います。
ここにも財政削減の考え方がちらつくのですが、認知症は総力戦です。
予防から治療、ケアまで、在宅介護であれ施設介護であれ、質の高いケアシステムをつくろうとするならそれなりの費用がかかります。
ところが、厚生労働省の政策は場当たり的で、かつ、すべてが後手後手になっているように思います。
超高齢社会のこれからいまのお年寄りは、お金を結構もっておられる方が多いと思うのですが、それを人生を最期まで安心して送れるように使っていただきたいと思います。
有料老人ホームを買っても決して安心はできないわけですから、老後の蓄えをご自分の最期をハッピーにするために使っていただきたい、子どもに残してやろうなどとは考えなくてよいと私は思うのです。
日本はいま、高齢者の問題や医療を含めて、国のシステム全体を構築しなおさなければいけない時期に来ています。
いろいろ不安視されていますが、日本人は勤勉だし、高い技術力をもっていますし、なんとか工夫しながら新たなシステムをつくっていくだろうと私は思っています。
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